キキョウ
この目で確かめたいこと
英語では、チャイニーズ・ベルフラワーと呼ぶ
キキョウ。草原に咲く姿はまことに風情がある。
開いた花はもちろん美しいが、蕾も興味深い。形
は風船の如し。バルーン・フラワーとも呼ぶらし
いが、なるほど仰せのとおり。
わが国では、より奇抜な見方をしたようで、平
安時代の文献である「本草和名」には、「阿利乃比
布岐」と記されると聞く。意味は、蟻の火吹き。昆
虫が火を吹くとは、なにやら魔術か宇宙から来た怪
物のようである。
実は、キキョウはアントシアンという色素を持
つ。そのキキョウを蟻が噛むと蟻酸によって花が
赤く変色することからという。実際、何回か赤い
花を見た事があり、是非とも両者の関係をこの
目で確かめたいと草原に足を運んでいる。
ご存知、山上憶良がいう秋の七草の一つ「朝顔
の花」は、キキョウとされる。その理由として、
当時はまだアサガオは渡来していなかったことが
あげられる。また、夏から秋にかけて咲くムクゲ
との説もあるようだが、紫は高貴な色とされる時
代。やはり、キキョウが適任ではなかろうか。
色・形の上品さから、殊のほか武家に好まれた
ようだ。江戸城には、「桔梗の間」や、太田道灌に
ちなんで名づけられた「桔梗門」もある。花言葉は、
「清楚・気品」、あるいは「変わらぬ愛」。凛とした
武士は、主君に忠義を尽くしたのであろう。
ではあるが、時とともに人の心もうつろうのが世
の常。戦国の時代、織田信長を本能寺で襲撃した
明智光秀の家紋は「桔梗」。いつしか愛は別の形に
姿を変えたようである。
なお、ほぼ全国に自生するが、近年はその数を
減らし、三瓶山でも守られるべき植物として指定
がなされている。

このコラムは、朝日新聞第2島根県版
「三瓶博物誌」に掲載されたものを
加筆・変更したものです。
ヒョドリジョウゴ
秋たけなわのこの時期、野山は、
赤、黒、黄褐色など様々な草木の
実のオンパレード。食べられるも
の、そうではないものもある。また
、花からは想像もできない色と形に
驚かされることもしばしば。ヒヨド
リジョウゴの花と実も、そうした一つ。
秋口に咲く花は、バトミントンで打つ
羽根。あるいは遊技で使うダーツの矢
のよう。花の後にできるまん丸の果実は
、最初は暗緑色。次第に艶のある見事
な深紅に変る。大きさが小さいだけで、
まるでプチトマト。思わず口に入れた
くなるほどだ。
名の由来は、ヒヨドリが好んで食べ
るから。と、するのが通説。しかし、
この実は食べられない。当のヒヨドリ
でさえ食べ過ぎると中毒症状を呈する
らしい。ヒヨドリは、他の小鳥たちが
色々な木の実を食べていると、意地悪
く追い払う。そして、片っ端から食べ
尽くす。 こうした様子が「意地汚い」
と悪口を言われる原因なのだろう。だ
からこそ、他の鳥たちが敬遠する実で
も、平気で食べるのかも知れない。
ヒョドリジョウゴは、三瓶山の奥深い
森林内を切り開いて通る周回道路脇な
どで見られる。しかし、道路の開通し
ていなかった頃は、そうありふれた植
物ではなかったように思う。なぜなら、
私を含む当時の子供たちの多くは、お
やつを求めて野山に分け入り遊ぶのが
日常だった。ヒヨドリみたいなガキ大
将たちである。美味しそうで、見た目
にもそそられる深紅の実を口に入れな
いわけがないからだ。